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「腐食連鎖から見渡す国内の生態系」 木谷勝己



生態系を支える食物連鎖には生食連鎖と腐食連鎖の2つのパターンがある。 生食連鎖に関しては「食うものと食われるもの」の関係で文字通り「植物」 → 「植食(草食)動物」 → 「肉食動物」とエネルギーが渡されていく関係をいう。生態系ピラミッド
この関係を表すために生態系ピラミッドと言われるものがよく用いられる。この生態系ピラミッドは「食うものは食われるものより数が少ない」という原則の上に成り立っている。
草食動物が減りすぎると捕食者である肉食動物の個体数にダメージを与え、逆に草食動物が増えすぎると植物の数が減りすぎて植食(草食)動物の死活問題に繋がる。
先進国の生態系ピラミッドは、肉食動物が不在、あるいは極端にてっぺんが細い形の歪んだピラミッドになってしまっている。
言うまでもなく、自然を理解できない人間が関わったために生態系は歪められてしまったのだ。

現在、日本ではシカの個体数が深刻な問題になっている。シカは日本百景に選定されている尾瀬国立公園にまで侵入している。
かつて日本の森林生態の生食連鎖においてシカの数を抑えていたのはオオカミであるが、1905年に人間の手によって絶滅に追いやられている。現在、シカを襲う肉食動物はヒグマとツキノワグマくらいだが、どちらとも好んでシカを狩る性質を持たない。ヒグマに関しては食物の約88%が植物で動物質の食物となると主に昆虫となる。従って、現状のシカの個体数は人の手によって調整する以外の方策がないのである。

もう一つの食物連鎖である腐食連鎖についてはどうだろうか。
「腐食連鎖」とは動物の死体や排泄物を起源とし、土壌の生物やバクテリアによって分解され最終的に無機物に還元される流れをいう。
生食連鎖の場合は多くても5段くらいまでが限度で、生態系内の物質は腐食連鎖に回る量のほうがはるかに多いのだが、あまり話題にあげられないが腐食連鎖に支えられている生態系の要素は極めて大きい。
都市部のように土がない環境では「腐食連鎖が正常に行われていないのだな」と感じさせられる場面に出会すことがしばしばある。都市部で鳴いている蝉は命が終わると無惨に路面に転がったままになっている。下に土があればアリなどの昆虫によって分解が進行するはずである。そもそも蝉が建造物の壁にとまって鳴いているというのは不自然な風景であるのだが、そこに違和感を覚えない人がほとんどであろう。

腐食連鎖に供給される物質の中心は死んだ植物体になる。植物の細胞は細胞壁で囲まれていて、この食物繊維は人の消化酵素によって消化することができない。従って不消化物としての植物繊維は腐食連鎖に回される。
しかし、反芻動物と言われるシカや牛は4つの胃を持っていて、第一胃(ルーメン)の微生物(プロトゾア=原虫)が他のほ乳類では消化できない植物繊維を分解する役割を果たす。その結果、約半分を消化吸収することを可能にするのだ。
羊や山羊の過剰な放牧が草原化、砂漠化をひき起こす例はよく聞く話だが、シカも例外ではない。そのような食欲旺盛な性質を持つシカが増えすぎたため、腐食連鎖のほうに植物が回らなくなってきているのが現状である。
また、腐食連鎖では動物の死体も重要な役割を果たしている。森林生態系には死体を利用する多くの生物存在し、分解を行う作業を引き受けてくれているのだ。この分解を担当しているのは、おもに細菌類と菌類である。
 現在、年間十数万頭のシカが駆除されているのだが、その死体は森林生態系から持ち出されてしまっている。腐食連鎖という観点から見るとシカの死体を放置しておけば分解者(微生物)による腐食連鎖が進むはずである。
 この地球全体が、実は人の目には見えないほどのバクテリアやその他の多くの生命に支えられて生きていることを理解しなければ、いつまでもこのようなその場しのぎの対策しか取れないであろう。


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